5. ロジバンの基礎
………
え、ここにきて「ロジバンの基礎」?
「New Game」をやり遂げた人にだからこそできる話があるんだよ。
実際、「文の基本構造」は、最低限ロジバンを使うためだけのことしか言ってない。
もう少しきちんとロジバンを理解するためには説明が必要なところがあるんだよ。
もう一度、「New Game」の「文の基本構造」をおさらいしていこう。
平叙文ふたたび
えっと、まず最初は、
平叙文というのは、要するに「何が (何を) (何に) (何へ) どうする/どうであるか」を表す文のことだ。
ってのをやったね。それで、
文というのは、「何」を表す部分(項)と、「どうする」を表す部分(述語)からなる。
って感じでしたね。
うん、これは特に補足するところもないね。
ふだん、私たちは言語を使って、
- どんな出来事 があるのかを述べたり、
- あるものにどんな性質 があるのかを述べたり、
- あるもの同士がどんな関係 にあるのかを述べたり
しているわけだ。たとえば順にこんな感じ。
- 「太郎の赤ちゃんが産まれた」「私たちのハムスターが死んでいる!」
- 「三角形は内角の和が180°になる」「人間は動物だ」
- 「私は花子より大きい」
で、こういうことに使われる文というのは2つの要素からなるわけだね。
一つはその文の主旨を表す部分(述語)で、もう一つは「登場人物」を表す部分(項)。
うん。この前やった通りだね。で、この後にロジバンでの平叙文の作り方を習ったよ。
ロジバンでは、述語として使える語句の意味は「x1, x2, x3 はどうである/どうする」という形式で定義されている。
この「穴あき文」形式の定義は書きやすいし、直観的に分かりやすいからよく使われるのだけど、いくつか注意が必要。
「穴あき文」は日本語で書かれてるわけだから、日本語の影響を受けた表現になってしまってるわけだ。
というと…。ロジバンは時制とか相とか態とか必須じゃないけど、日本語だとそうはいかないから…みたいな?
そうだね。その「穴あき文」形式で表現されているロジバンの単語は、実際はもっと洗練/漂白された意味かもしれないってことを肝に銘じてて。
「どんな関係がどんなものを取り結んでいるのか」という素朴な意味がロジバン単語の本質なわけ。
もう少し詳しい話をすると……、していい?
うーん。どうぞ。
ありがとう。
さっき言ったように、平叙文を使って私たちはふだん「どんな出来事/性質/関係があるか」を述べてるわけだ。
それで、この世界にある様々な出来事、性質、関係っていうのは大体パターン化されてるんだよね。
たとえば、「売買」という出来事には「売り手」「買い手」「商品」「対価」という存在が関わってくるじゃん。
そんな感じで、ある種類の出来事/性質/関係には大体決まった「登場人物」が出てくる。
そこで、よく出てくる「登場人物」について簡単に言えるように、単語それぞれで独自に席を用意してある。
それが「穴あき文」形式でいうところの「x1, x2, x3,…」にあたる。
この「登場人物」たちと、表したい出来事/性質/関係を一度に書き切ろうとする形式が「穴あき文」形式といえる。
なるほどね。で、あまり出てこない「登場人物」を登場させたいときは、タグを使えばいいわけね。
そう。それから、あまりに多くの出来事/性質/関係に共通な「登場人物」、たとえば「時間」「場所」とかは、
共通の方法で席を用意したほうが簡潔だし分かりやすいしで、タグの方法にしてるって考えてもいいかもね。
で、席って言ったけど、別に全部埋める必要はなくて、私たちは言いたいことだけ言えばいい。
言ってないことについては文脈とか常識を頼りにして適当に補完してもらえばいいし、たいていの人間ならそれができる。
ロジバンのモットーは「全て言わなくても通じるだろう」。「最小限の記述は最大限の解釈の余地を秘めている」のだ。
「最小限の記述は最大限の解釈の余地を秘めている」か。
tanruも、時制も、相も、zo’eも。確かにロジバンはそんな感じのキャラだったね。
話題
さっき、「「穴あき文」は日本語で書かれてるわけだから、日本語の影響を受けた表現になってしまってる」って言ったよね。
うん、言ってた。
その一つでもあるのだけど、ロジバンの『素朴な』平叙文は厳密には話題を提示しません。
さっき見た通り、ロジバンの素朴な平叙文は「どんな関係/性質/出来事があった」ってことを言うだけだからね。
あるものを明示的に話題に取り上げて、それについて「どんな関係/性質/出来事があった」とは言ってないわけ。
でも日本語だと、そういう「素朴な」表現はたいてい違和感があるので、「穴あき文」形式の定義の多くは、あえて話題付き平叙文で書かれてる。
もしかして:「は」
そう。英語だと典型的には主語が話題でもあるように、日本語だと「は」の付いた語が話題として振る舞う。
「象は鼻が長い」とかね。これは話題「象」について「鼻が長い」という情報を与えてる。
「穴あき文」の x1 は話題とは限らない ってことを理解しておくこと。
なるほど。じゃあロジバンで、話題を示すときはどうすればいいの?
「ニューゲーム」の最後の方で {zo’u} についてやったと思うんだけど、実はzo’uは話題マーカーを兼ねている。
zo’uより前に置いた項はその文の話題とみなされます。
- zo’u
- 話題部終了。話題部には、タグのありなし問わず、項をいくつも置ける。
- lo xanto zo’u lo nazbi cu clani
- 象は鼻が長い。
- ca lo bavlamdei zo’u mi cliva ti
- 明日は、私がここを去ります。
- mi cliva ti ca lo bavlamdei
- 私がここを明日去ります。
- mi zo’u ca lo bavlamdei cu cliva ti
- 私は、明日ここを去ります。
- xanto
- x1 は x2 (種類)のゾウ科動物
- nazbi
- x1 は x2 (生体)・ x3 (鼻腔)の鼻
- clani
- x1 は x2 (次元/方向)・ x3 (照合枠)において長い
とはいえ、使うときは使うけど、いまのロジバンユーザーはあまり話題を明示しないね。
それはもしかしたら「穴あき文」形式定義に惑わされてるからかもしれないし、単に「最小限の記述」を魅力的だと思ってるからかもしれない。
ああ、話題が明示されてなかったら、それはそれでやっぱり話題について適当に補完してもらうってことになるわけね。
やっぱり「最小限の記述は最大限の解釈の余地を秘めている」に落ち着くわけだ。
True/False Questions
- いわゆる「穴あき文」形式の定義は完全忠実にそのロジバン単語の語義を捉えている。
- いわゆる「穴あき文」形式の定義を見る際は、その言語の「クセ」について十分考慮する必要がある。
- 多くの言語で、主語は話題でもあるが、ロジバンについても同様である。
- ロジバンで話題を明示するときは zo'u を用いる。
-/- answers correct!